序章
その昔、力を司る神・帝釈天の治める忉利天なる地に、正義を司る天部の神が住んでいた。名を阿修羅という。
阿修羅には娘がいた。名を舎脂。また、阿修羅の大切な一人娘は、ゆくゆくは帝釈天へ嫁がせる心算であったという。しかして帝釈天は、阿修羅の娘・舎脂を一目で気に入ると、舎脂を無理矢理己の宮殿へと連れ去り、その純潔を奪ってしまった。それに激怒した父の阿修羅はその手に武器を持ち、帝釈天へと戦いを挑むことになる。
戦いは激しいものとなった。阿修羅は娘を奪われた怒りからひたすらに戦い続け、敗戦が続いた。だが、日に日に激化する戦いの最中、阿修羅は舎脂の心が帝釈天へ向けられていることを知り、さらに怒り狂ってしまう。心の支柱であった娘による突然の裏切り。ぶつけどころのない怒りはみるみるうちに膨らみ、やがて阿修羅は妄執に取り憑かれ、
――悪鬼と化してしまうのだった。