終章
阿修羅と帝釈天の戦いは、予想外の形で終わりを迎えることとなった。
敗戦が続いていた阿修羅の軍が、ようやく優勢となった時。後退を余儀なくされていた帝釈天の軍が、突然戦さ場へ戻ってきたのだ。
帝釈天は何万匹もの蟻が列を成しているのを見て、それを守るために軍を前進させたのだという。一方、そんなこととはつゆ知らず、戦さ場に戻ってきた帝釈天の軍勢を見た阿修羅は、何かの計略があるのではないかと考え、撤退をしたのであった。そうして長きにわたって続いた戦は幕を下ろし、阿修羅は天部より追われることになる。
娘を思うあまりに悪鬼に転じた阿修羅と、力づくで娘を手に入れた帝釈天。
一説にはこんな話がある。元より嫁ぐつもりであった舎脂と帝釈天は、阿修羅が知るよりずっと前から、愛し合っていたのではないのかと。
妄執に取り憑かれるあまり周りを顧みず、戦いに明け暮れた阿修羅。力づくで父親から娘を奪い、舎脂の純潔を散らすも、小さな蟻の命にすら慈悲を見せた帝釈天。果たして、悪はどちらか。
隠された真実は神のみぞ、知っている。
【阿修羅道 完】